本屋町通

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エントロピー増大則と生命

 整理整頓された部屋は放っておくと散らかり、高い山も風化していずれはなだらかな丘となる。太陽もいずれは燃え尽きてただのガス雲になる。といったように物事は放置しておくと偏在から均一へ、複雑から単純へ、秩序から混沌へと移りゆくのがこの世界の摂理である。これらの現象は、エントロピー増大則により示される。
 エントロピー増大則とは、熱エネルギーすべてを別のエネルギーに変換することは出来ないということを表す熱力学第二法則から導き出された法則である。エントロピーは、物や熱がどれだけ拡散しているかを表す状態量でそれが常に増大する。つまり、物質や熱は、常に拡散するものであるということだ。それを視覚的感覚の言葉を用いて表したのが物事は秩序を保った状態から無秩序な状態へ移りゆくという言葉なのである。具体的に言えば、先に言ったような、整理整頓された部屋はいずれ散らかり自然に整頓されることはないということである。また、エントロピー増大則とはこのような事柄を一般的に表した法則なのである。
我々生命は約四十億年の歴史を持つ。またその間に生命が誕生し、ダーウィンが示したようにより多様に、より複雑へと進化を遂げてきた。単純な構造から、複雑な構造へと。このような生命の活動から一つ疑問が生じてくる。

「生命とは、エントロピーの流れに逆行するのではないか。」

という疑問である。物理学者のシュレーディンガーは、生物はネゲントロピー(負のエントロピー)を摂取して生きていると表した。生物はエントロピーの低い野菜や肉を摂取して個体内のエントロピーを下げている。また、汗や排泄物といった形で高まったエントロピーを排出する。このようにして、生物という存在は、個体内のエントロピーを一定に保っている。また、これが出来なくなったとき、生物は死を迎えるのだ。
生物の体内ではエントロピーが一定に保たれているが、体外にエントロピーを排出しているので、マクロ的視点で見れば生物の活動も例外なくエントロピーを増大させている。よって、生物もエントロピー増大則の例外では無いということが分かる。これは冷蔵庫やクーラーでも言えたことで、室内や庫内ではエントロピーを減少させることができるが、発電所では減少させた以上の量のエントロピーを増大させているのである。
 以上で生物の活動もエントロピー増大則に沿っているということは分かる。しかし、それが分かったところでまた別の疑問が生まれてくる、どうしてエントロピーが増大していく法則の世界の中に、物質を高度複雑に組み合わせ、個体内のエントロピーを維持するというシステムを持つ生物という存在が自然と生まれたのかという疑問である。しかし、これに対する正確な解答はまだ現代科学でも見出されていない。
 近年の科学では、非平衡状態にある現在の宇宙のような、エネルギーや物質が流動的に存在する環境の場合、平衡状態では安定でなかった動的で複雑な構造が形成、維持されることがある。このような構造を散逸構造というが、生命という存在はこの散逸構造が高度に複雑化された物なのではないか、と予測されている。
 人類史上、生命の発端には一定の法則、原理が存在する物として、多端に研究がなされてきた。しかし、生命の謎を根本に解決する法則は発見されておらず、そこに法則が存在するかどうかも分からない。それこそが、生命が神秘であると言われる所以であるのだ。
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椰沙思乃

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